ホルムズ海峡の事実上の封鎖により、世界の原油供給の約20%が滞り、史上最大規模の供給ショックが発生している。しかし、市場は戦略的石油備蓄の放出や代替ルートの活用により、想定以上の強靭性を示している。今後は、供給再開時の価格急落リスクと、物流網の混乱による企業収益への圧迫(マージンスクイーズ)が最大の焦点となる。

供給ショックの深層と市場の「不気味な安定」

2026年2月末から続くホルムズ海峡の事実上の封鎖は、日量約1,000万バレルの原油供給を遮断し、国際エネルギー機関(IEA)が「史上最大の供給混乱」と呼ぶ事態を引き起こしている。しかし、ブレント原油価格は一時120ドルに迫ったものの、現在は90ドル台半ばで推移しており、ダラス連銀が予測した132ドルには達していない。この「不気味な安定」の背景には、中東産油国による紅海やオマーン湾へのパイプラインを通じた日量500万〜600万バレルの代替輸送ルートの確保、IEAによる過去最大規模の4億バレルの戦略的石油備蓄(SPR)放出、そして中国の潤沢な在庫(約13億バレル)が存在する。さらに、米国が日量1,300万バレルを超える原油を生産し、LNG輸出も拡大していることで、米国が「限界的な被害者」から「限界的な供給者」へと構造転換を遂げている点も、市場のパニックを防ぐ大きな要因となっている。

物流制約がもたらす「マージンスクイーズ」の脅威

原油価格の急騰が抑えられている一方で、実体経済への影響は「物流制約」という形で静かに、しかし確実に進行している。喜望峰ルートへの迂回が常態化したことで、リードタイムは2〜3週間延伸し、コンテナ不足と運賃・保険料の高騰が引き起こされている。この影響はエネルギー輸送にとどまらず、ナフサやアンモニアなどの化学・肥料原料、さらには食品や工業製品のサプライチェーン全体に波及している。企業は、原材料費と物流費の同時上昇というコストプッシュ圧力に直面する一方で、最終製品への価格転嫁には時間差が生じるため、利益幅が圧縮される「マージンスクイーズ」に苦しむことになる。特に、電力コストの上昇は遅れて反映されるため、企業の負担は今後さらに重くなることが予想される。

供給再開シナリオに潜む「非対称なリスク」

市場の最大の死角は、ホルムズ海峡が再開された後のシナリオにある。海峡が再開されれば、中東で停止していた日量約900万バレルの生産能力が復活し、地域に滞留していたタンカーの在庫が一気に市場に放出される。これに、高値で増産を続ける米国のシェールオイルが加われば、市場は一転して深刻な供給過剰に陥るリスクがある。SPRの再充填需要はあるものの、供給の回復スピードに比べて需要の回復は緩やかであるため、価格の下落圧力は急激なものとなる可能性が高い。つまり、現在の市場は上値余地が限定的である一方で、下値リスクが極めて大きい「非対称なリスク」を抱えていると言える。投資家や企業は、現在の価格安定に安堵することなく、供給再開時の急激な価格変動と、長期化する物流コスト上昇への備えを急ぐ必要がある。

  • ホルムズ海峡封鎖による原油供給の遮断規模:日量約1,000万バレル(世界の海上石油取引の約20%)
  • IEAによる戦略的石油備蓄(SPR)の放出規模:過去最大の4億バレル
  • 代替ルート(紅海・オマーン湾)による輸送量:日量500万〜600万バレル
  • 世界銀行の予測:2026年のエネルギー価格は前年比24%上昇、ブレント原油の平均価格は86ドル/バレル

出典:OilPrice.com (2026/04/28), World Bank (2026/04/28), Real Investment Advice (2026/04/27), 新電力ネット (2026/04/29)

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