中東紛争によるホルムズ海峡の実質的閉鎖が世界の石油供給の16〜20%を遮断し、G20インフレ率を従来予測比1.2ポイント高い4.0%へ押し上げた。世界銀行は2026年の世界成長率を2.5%に下方修正し、OECDは油価が基準比25%上振れした場合、世界GDPが2年目に0.5%追加低下するリスクシナリオを示している。
ホルムズ遮断が露わにした「エネルギー安全保障の死角」
2026年2月下旬に事実上閉鎖されたホルムズ海峡は、世界の石油輸送量の約20%、LNG輸送量の相当部分が通過する戦略的要衝である。世界経済フォーラム(WEF)の調査(2026年4月)によれば、原油だけでなく肥料原料となる天然ガスや石油化学製品の供給も同時に途絶し、農業・製造業を含む広範なサプライチェーンに波及した。世界銀行の「Global Economic Prospects」(2026年6月)は、エネルギー価格の急騰が新興市場・途上国(EMDE)の一人当たり所得成長率をパンデミック以来の最低水準に押し下げると警告している。
製造業PMIが示す「地域間格差」の拡大
エネルギーショックは製造業に非対称な影響を与えている。Reuters(2026年6月1日)が集計したS&P Global購買担当者景気指数(PMI)によると、ユーロ圏では原材料コストが過去4年間で最速ペースで上昇し、新規受注が低迷している。一方、米国のISM製造業PMIは54.0と4年ぶりの高水準を記録した。これは、企業がさらなる供給途絶を見越して在庫を前倒しで積み増す「フロントローディング」行動によるものであり、需要の実態を反映した数値ではない点に留意が必要である。アジアでも中国・韓国が拡張局面を維持しているが、その背景には同様の予防的在庫積み増しが指摘されている。
「フレンド・ショアリング」加速と投資先の再配置
地政学リスクの高まりは、企業の投資地理戦略を根本から書き換えつつある。WEFチーフエコノミスト見通し(2026年5月)では、回答者の65%が米国を、56%がインドを、50%が東南アジアを今後12カ月の最有望ビジネス環境のトップ3に挙げた。エネルギー輸入依存度の高い欧州や東アジアの製造拠点が相対的に脆弱性を増す一方、エネルギー自給率が高く地政学的リスクから距離を置ける地域への生産移転が加速している。OECDは、こうした供給網の再編が短期的な非効率コストを生む一方、中長期的なレジリエンス向上につながると評価している。
IMFは、紛争が長期化した場合の追加的な成長下振れリスクを「決定的にダウンサイド」と表現しており、エネルギー価格が高止まりする期間と各国中央銀行の政策対応の余地が、2026年後半の世界経済の分岐点となる。
出典:World Bank — Global Economic Prospects (2026年6月), IMF — World Economic Outlook (2026年4月), OECD — Economic Outlook Interim Report (2026年3月), WEF — Chief Economists Outlook (2026年5月), Reuters — Global PMI Report (2026年6月1日)
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