世界直接不動産取引額は前年同期比18%増の2,160億ドルに達し、REIT市場も堅調なリターンを示しました。しかし、5月の米国住宅着工件数が2020年5月以来の低水準に急減し、イラン紛争による地政学リスクも継続。市場の回復基調に不確実性が増しています。

グローバル不動産取引回復の陰に潜む地政学リスクと金利の制約

JLLが2026年5月5日に発表したレポートによると、2026年第1四半期の世界直接不動産取引額は2,160億ドルに達し、前年同期比で18%増加しました。この回復は、特にアジア太平洋地域で顕著であり、投資額は前年同期比31%増を記録し、日本とシンガポールがその牽引役となりました。米州も25%増と堅調な伸びを見せた一方、EMEA地域は2%減となりました。クロスボーダー投資は550億ドルと37%増加し、2022年以来の最高水準に達しており、市場の流動性が改善していることを示唆しています。

しかし、JLLはイラン紛争の経済的影響が依然として不確実であり、サプライチェーンの混乱やインフラへの損害が長期化する可能性を指摘しています。この地政学的な緊張は、市場の回復基調に新たなリスク要因として加わり、投資家の意思決定に慎重な姿勢を促しています。加えて、高止まりする金利環境は、不動産評価に引き続き影響を与え、リターンが主にインカムゲインによって牽引される状況が続いています。

米国住宅着工の急減とREIT市場の動向

米国では、住宅市場に新たな懸念が浮上しています。Trading Economicsが2026年6月に報じたところによると、5月の住宅着工件数は季節調整済み年率で117.7万戸と、前月比15.4%の大幅な減少を記録しました。これは2020年5月以来の低水準であり、住宅市場の減速を示唆しています。一方、米国センサス局が2026年5月21日に発表した4月の住宅着工件数は年率換算146.5万戸で、前月比2.8%減ではあったものの、前年同月比では4.6%増と堅調でした。この5月の急減は、高金利環境が住宅建設業者や購入者に与える影響が顕在化し始めた可能性を示唆しており、今後の動向が注目されます。

公開REIT市場では、Nareitのデータによると、2026年2月時点で全エクイティREITの年初来総リターンが10.5%、モーゲージREITが1.9%と堅調に推移しています。配当利回りは全エクイティREITで3.7%、モーゲージREITで12.1%と魅力的です。FTSE EPRA Nareit Developed Indexも11.2%の上昇を記録しており、不動産市場が金利高止まりの環境下でも一定の回復力を見せていることを示しています。しかし、住宅着工の急減は、REIT市場、特に住宅系REITに間接的な影響を及ぼす可能性があります。

指標最新値含意
世界直接不動産取引額 (2026年第1四半期)2,160億ドル、前年比18%増市場流動性の回復
米国住宅着工件数 (2026年5月)117.7万戸、前月比15.4%減住宅市場の急減速
全エクイティREIT総リターン (2026年2月時点)年初来10.5%公開市場の先行反発
イラン紛争経済的影響は不確実地政学リスクの増大

市場の不確実性と今後の展望

2026年後半に向けて、グローバル不動産市場は取引額の回復を維持しつつも、イラン紛争による地政学リスクと、米国住宅着工の急減に代表される高金利環境の長期化という二重の制約に直面します。投資家は、賃料成長の持続性、資金調達条件の改善、そして供給制約を持つ特定の資産クラスへの選別投資を一層重視するでしょう。特に、データセンターや一部の住宅系セクターなど、構造的な需要に支えられた分野への資本集中が続く可能性があります。

出典:JLL (2026年5月5日), U.S. Census Bureau (2026年5月21日), Nareit (2026年), Trading Economics (2026年6月)

免責事項:本記事は情報の提供を目的としたものであり、投資勧誘を意図するものではありません。
Visuals created using artificial intelligence.