ホルムズ海峡の輸送制約は、今年のエネルギー市場を原油価格だけでなく、LNG、肥料、半導体素材、金融政策まで含む供給網リスクとして再価格化させている。IEAは5月の月報で、2026年の世界石油供給を前年比390万バレル減の日量1億220万バレルと見込み、湾岸産油国の生産が戦前水準を日量1440万バレル下回るとした。

この変化は需要減退による価格調整では説明できない。IEAによると、2026年の世界石油需要は前年比42万バレル減の日量1億400万バレルで、戦前予測を日量130万バレル下回る一方、4月の世界供給は前月比180万バレル減の日量9510万バレルにとどまった。北海Datedは4月平均で1バレル120.36ドルとなり、観測在庫は3月に1億2900万バレル、4月に1億1700万バレル減少した。需給の双方が縮小するなかで価格が維持されている点は、輸送制約そのものが価格形成要因になっていることを示す。

ホルムズ制約がアジアの貿易収支を押す

EIAによると、ホルムズ海峡を通過した石油フローは2025年上半期に平均日量2090万バレルで、世界の石油液体燃料消費の約20%、世界の海上石油貿易の約25%に相当した。同期間に同海峡を通過した原油・コンデンセートの89%はアジア市場向けで、中国、インド、日本、韓国だけで74%を占めた。これは中東情勢の変化が、欧米市場の先物価格だけでなく、アジア企業の燃料調達費、電力価格、化学品コスト、経常収支に直接波及する構造である。

代替輸送能力は限定される。EIAは、サウジアラビアとUAEの代替パイプライン容量を合計約470万バレル、イランのGoreh-Jaskルートの実効容量を約30万バレルと整理している。平時の日量2090万バレルというホルムズ経由フローに対し、これらの代替能力は同規模ではない。さらに、同海峡を通過するLNGは2025年上半期に日量11.4Bcfで、世界LNG貿易の20%超を占めた。日本や韓国の電力会社にとって、原油とLNGの同時制約は燃料費調整、卸電力価格、製造業の操業コストに連鎖する。

エネルギーショックは素材と金融市場へ波及

IEEFAは、中東危機が輸入化石燃料に依存する国を国際商品市場の価格変動と地政学プレミアムにさらし、インフレ、金利、貿易収支、GDP成長率へ波及し得ると指摘した。影響は燃料だけに限られない。同機関は、ホルムズ海峡が肥料の世界海上貿易の3分の1、世界肥料供給の7〜8%に関わり、ペルシャ湾が半導体製造に使われるヘリウムの約40%に接続していると整理している。農産物価格、半導体生産、化学素材価格は、エネルギー市場とは別の経路で企業収益を圧迫する。

金融面では、FRBの2026年5月金融安定報告書が同じ経路を確認している。ニューヨーク連銀スタッフが3〜4月に聞き取った20件の市場関係者調査では、地政学リスクと原油ショックが今後12〜18カ月の主要リスクに挙げられた。回答者は、イラン紛争後のエネルギー供給途絶がインフレを長期化させ、成長が鈍化しても中央銀行に金融引き締めを迫り得ると見ている。FRBは、商品不足と供給網制約が世界インフレ、景気減速、リスク資産売却、デリバティブ市場の証拠金圧力へ広がる可能性を説明した。

今後の焦点は、ホルムズ海峡の通航量、IEAが示す在庫取り崩しの速度、アジア向けLNG契約価格、主要中央銀行のインフレ判断である。供給制約が数カ月単位で残る場合、企業は燃料調達だけでなく、輸送、肥料、半導体素材、資金調達コストを同時に見直す局面に入る。

出典:IEA Oil Market Report (2026年5月), EIA World Oil Transit Chokepoints (2026年3月3日), IEEFA Middle East Crisis Analysis (2026年5月), Federal Reserve Financial Stability Report (2026年5月8日)

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