2026年初の不動産市場は取引額とREIT価格が回復した一方、米CPI3.8%、政策金利3.50〜3.75%が利回り低下と資金調達改善を制約している。
取引量の回復はアジア太平洋と北米が主導
2026年第1四半期の世界直接不動産取引額は、JLLによれば前年同期比18%増の2,160億ドルだった。地域別ではアジア太平洋が31%増、アメリカ大陸が25%増となり、EMEAは前年同期比2%減だった。クロスボーダー投資は前年同期比37%増の550億ドルとなり、2022年以降で最も高い第1四半期実績となった。市場の焦点は「取引量が底入れしたか」ではなく、金利とインフレが価格形成をどこまで抑制するかに移っている。
この回復は、すべての資産タイプに均等に波及しているわけではない。JLLは、世界のオフィス賃貸需要が2026年第1四半期に前年同期比1%減となり、9四半期続いた年率ベースの成長が一服したと報告している。一方で、米国のオフィス新規建設は記録上最低水準にあり、残る開発パイプラインの3分の2超がすでにプレリース済みである。したがって、オフィス市場の論点は総需要の回復率ではなく、築浅・高性能ビルへの需要集中と二次立地・老朽ストックの価格調整の差にある。
REIT市場の反発は金利低下期待だけでは説明できない
Nareitの四半期データでは、2026年2月時点の年初来総合リターンは、全エクイティREITが10.5%、モーゲージREITが1.9%だった。FTSE EPRA Nareit Developed Indexは11.2%の年初来リターンを記録し、上場不動産セクターは2025年後半の弱い局面から価格を戻した。配当利回りは全エクイティREITで3.7%、モーゲージREITで12.1%であり、収益還元型資産としての相対利回りは残っている。
ただし、REIT価格の反発をそのまま実物不動産価格の全面回復と読むことはできない。REITは上場市場で流動性が高く、金利期待や信用スプレッドの変化を実物取引より早く織り込む。一方、実物不動産の鑑定価格と売買価格は、借入コスト、借換期限、テナント契約期間、キャップレートの再設定に遅れて反映される。2026年の上場REIT反発は、実物市場の価格回復の先行指標であると同時に、金利が再上昇した場合に再評価が起きやすい市場でもある。
米国の成長率2.0%とCPI3.8%がキャップレート圧縮を制約
米商務省経済分析局(BEA)の速報値では、米国の実質GDPは2026年第1四半期に年率2.0%増加した。2025年第4四半期の0.5%から加速し、投資、輸出、個人消費、政府支出が成長に寄与した。一方で、住宅投資は新築一戸建てと仲介手数料の減少を背景にマイナス寄与となった。商業不動産だけでなく、住宅関連取引にも金利感応度の高さが残っている。
インフレ面では、米労働省労働統計局(BLS)が2026年4月のCPIを前月比0.6%増、前年比3.8%増と公表した。コアCPIは前年比2.8%、エネルギー指数は前年比17.9%上昇した。FRBは2026年4月29日のFOMC声明で、フェデラルファンド金利の誘導目標を3.50〜3.75%に据え置き、インフレはエネルギー価格上昇の影響を含めて高止まりしているとした。商業不動産のキャップレート低下、ローン・トゥ・バリュー改善、借換条件の緩和は、この環境では直線的には進まない。
2026年後半の焦点は「流動性回復」と「借換コスト」の綱引き
2026年後半の国際不動産市場では、取引量の回復、REIT価格の反発、オフィス新規供給の縮小というプラス材料と、CPI上振れ、エネルギー価格、政策金利の高止まりという制約条件が併存する。投資家と不動産実務者にとって重要なのは、総量としての市場回復ではなく、資産タイプ別に資本コストを吸収できる賃料成長があるかどうかである。
データセンター、物流、プライム商業施設、制度化が進む賃貸住宅は、構造的需要に支えられる一方、電力制約、建設費、人件費、規制対応コストを価格に転嫁できる立地と事業者に優位性が集中する。オフィスでは、新築供給の減少が高品質ビルの需給を引き締めるが、低稼働の二次ストックでは賃料成長よりも資本的支出と空室リスクが先行する。2026年の市場回復は一枚岩ではなく、利回りの絶対水準よりも、インフレ率、資金調達コスト、賃料改定力の差が投資判断の基準になる。
出典:JLL Global Real Estate Perspective (2026年5月5日), Nareit Quarterly REIT Performance Data (2026年5月6日), U.S. Bureau of Economic Analysis GDP Advance Estimate (2026年4月30日), U.S. Bureau of Labor Statistics Consumer Price Index Summary (2026年5月12日), Federal Reserve FOMC Statement (2026年4月29日)
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