エグゼクティブ・サマリー
2026年の世界不動産市場は、急激な金融緩和ではなく資本コストの正常化を背景に、取引回復と供給制約が同時進行する局面に入っている。実物市場ではオフィス、住宅、物流、リテールで需給の差が拡大し、上場REIT市場では地域間のリターン格差が鮮明化している。
金利低下ではなく「資本コストの正常化」が市場の再起動を促す
2026年のグローバル不動産市場を理解するうえで重要なのは、単純な利下げ期待ではない。IMFは2026年の世界成長率を3.3%と見込み、金融環境の緩和とインフレ鈍化が景気を下支えすると整理している。一方で、PwC/ULIとMSCIはいずれも、地政学リスクや政策不確実性が残るため、取引回復はV字反転ではなく緩やかな価格発見の再開として進む可能性が高いと示している。
JLLによれば、2025年の世界不動産直接投資額は前年比19%増、クロスボーダー投資は25%増となった。これは投資家が全面的なリスクオンに戻ったことを意味するのではなく、負債市場の流動性改善と米国債ボラティリティの低下によって、案件のアンダーライティングがようやく成立しやすくなったことを意味する。すなわち、2026年の市場は「カネ余り」の再来ではなく、借入条件が読めるようになった結果としての選別的な回復に近い。
- 2025年の世界不動産直接投資額は前年比19%増、クロスボーダー投資は25%増。
- IMFの2026年世界成長率見通しは3.3%。
- MSCIは主要都市の流動性指標がなお長期平均を下回ると指摘している。
需給の本丸は「不足する新規供給」であり、賃料形成を左右する
実物市場では、景気よりも供給不足の継続が価格と賃料を規定しつつある。JLLは、世界のオフィス空室率が2025年半ばのピーク後に低下へ転じ、米国では着工が記録的低水準、欧州では新規着工が10年以上で最低水準にあると報告する。高品質の中心部オフィスで供給が細る一方、テナント需要は立地と品質に集中しており、同じオフィスでも「プライム」と「セカンダリー」の格差が一段と広がりやすい。
同様の構図は物流とリテールにも及ぶ。JLLは物流で新規供給がピークから大きく減少し、今後12か月で空室率が横ばいまたは低下に向かう可能性を示す。PwC/ULIは、2025年の世界リテール取引額が1250億ドルで前年比7%増、インダストリアルが1860億ドルで前年比6%増と整理し、特にリテールでは建設コスト高と許認可制約が供給増を抑える結果、優良立地の賃料と稼働率を支えている。供給制約は本来、景気減速局面では弱材料になり得るが、2026年は既存資産の希少性を押し上げる方向に作用している。
- 世界のオフィス賃貸は2025年に前年比5%増で2019年以来の高水準。
- 2025年の世界オフィス取引額は1958億ドルで前年比18%増。
- 2025年の世界住宅取引額は2242.7億ドルで最大セクター。
REIT市場では「実物回復の前に評価修正」が起こりやすい
上場REIT市場の論点は、現物不動産よりも先にバリュエーションの修正が進みやすい点にある。Nareitによれば、米国REITの2025年1〜3Q累計では、FFOが前年同期比6.2%増、NOIが4.7%増、配当総額が6.3%増と、運営指標はなお堅調だった。しかし株式市場では大型テック偏重が続いたため、REITの評価倍率は一般株式と比べて見劣りし、私募不動産との評価差も長期化した。
他方で、2025年のリターン格差は地域分散の重要性を浮き彫りにした。Nareitによると、FTSE EPRA Nareit Developed Indexの2025年リターンは10.6%で、米国のみのFTSE Nareit All Equity Indexの4.5%を上回った。地域別ではアジア28.0%、欧州19.9%、アメリカ大陸5.5%と開きが大きい。これは、同じ「不動産株」でも金利感応度、為替、各地域の供給事情、リファイナンス環境が異なるためであり、2026年のREIT市場を一括りに語れない理由でもある。
- 米国REITの2025年1〜3Q累計でFFOは6.2%増、NOIは4.7%増。
- 2025年のFTSE EPRA Nareit Developed Indexは10.6%、米国REIT指数は4.5%。
- 地域別の2025年リターンはアジア28.0%、欧州19.9%、アメリカ大陸5.5%。
都市・地域差を読む鍵は、資本の戻り方と政策の違いにある
2026年の注目点は、回復の有無ではなく、どの都市に、どの種類の資本が戻るかである。MSCIとPwC/ULIは、伝統的な機関投資家だけでなく、ファミリーオフィス、富裕層資金、半流動型の商品を通じた個人マネーの存在感が高まっていると指摘する。これは案件のサイズ、求められる利回り、許容できる流動性が従来と変わりつつあることを示す。欧州では建設コスト高と供給不足が既存資産価値を支え、アジアでは供給網再編やインドのオフィスREIT拡大余地、中国の商業用REIT制度拡張がテーマになっている。米国では資本コストの高さへの警戒が依然強い一方、供給抑制が一部セクターの需給改善を先導している。
このため、今後の焦点はキャップレートの一律低下ではなく、賃料成長を伴うアセットにだけ利回り圧縮が起こるかに移る。中心部の高品質オフィス、供給不足の住宅、運営力が問われる代替セクターではその条件が整いやすい一方、二次立地や旧式在庫では回復の速度が鈍い可能性が高い。市場全体のセンチメントは改善しているが、2026年の実務はなお「選別」と「再価格付け」が中心テーマであり続ける。
- JLLは2026年にリビング投資額が2500億ドルを超える可能性を示す。
- MSCIは欧州の代替セクターが2025年取引の18%を占めたと報告する。
- 中国では商業用REIT制度の適格資産拡大、インドではオフィスREITの成長余地が注目点となっている。
出典:JLL (2026-02-17), IMF (2026-01), Nareit (2025-12-08), MSCI (2026-01-07), PwC/ULI (2026-03-11)
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