今年のコモディティ市場は、歴史的高値を更新し続ける金と、供給過剰感に沈む原油、そしてAI需要で構造的不足に転じる銅という、極めて対照的な三極化の様相を呈している。中央銀行の脱ドル化と地政学リスクが実物資産の価値を再定義する一方で、物理的な供給網の断片化が価格形成の歪みを生んでいる。

中央銀行とETFが描く新たな価格形成

2025年に53回の史上最高値を更新した金市場は、2026年に入ってもその勢いを維持している。この強気相場の核心にあるのは、単なるインフレヘッジではなく、グローバルな通貨秩序の変容である。世界金評議会(WGC)のデータによれば、2025年の中央銀行による買い越しは863トンに達し、歴史的な高水準を記録した。特に新興国を中心とした「外貨準備の多角化」が、金価格の下値を強力に支えている。

一方で、市場では「金利上昇局面での金高」という、従来のマクロ経済学的な相関(実質金利との逆相関)の弱体化が議論の的となっている。これについて、アナリスト間では以下の二つの視点が対立している。

2025年に801トンという記録的な流入を見たETF勢の動きは、後者の構造的変化を裏付けており、機関投資家がポートフォリオにおける金の役割を「代替資産」から「コア資産」へと格上げしていることが伺える。

洋上在庫の積み上がりと地政学制裁のジレンマ

金とは対照的に、原油市場(ブレント原油)は1バレル60ドル台前半という、4年ぶりの安値圏で推移している。国際エネルギー機関(IEA)の報告によれば、世界的な「洋上在庫(Oil on water)」は過去最高水準に達しており、これが価格の上値を重くしている。この現象の背景には、制裁対象となっているロシアやベネズエラ産の原油が、正規の流通経路を外れて滞留しているという供給網の歪みがある。

市場の争点は、OPECプラスによる減産措置の実効性と、非加盟国(米国、ブラジル等)の増産ペースの乖離にある。IEAの分析では、2026年の需要増の60%以上が石油化学向けと予測されており、従来の輸送用燃料需要の伸び悩みが見て取れる。投資家や実務家にとっての懸念は、物理的な在庫ハブ(クッシング等)での在庫減少と、洋上での過剰在庫という「デコネクト(乖離)」が、突発的な地政学リスク発生時に価格の乱高下を招くリスクである。

ドクター・カッパーが警告する「構造的不足」の再来

景気の先行指標とされる銅(ドクター・カッパー)は、2026年に向けて最も劇的な転換点を迎えている。国際銅研究会(ICSG)は、2025年までの供給過剰予測を撤回し、2026年には15万トンの供給不足に転じるとの予測を発表した。この背景にある最大の変数は「AIデータセンター」である。

S&Pグローバルの最新調査によれば、AIの演算能力拡大に伴う電力網の増強と冷却システムへの投資が、銅需要を指数関数的に押し上げている。一方で、供給側では新規鉱山開発の停滞と既存鉱山の品位低下が深刻化しており、2026年の精錬銅生産の伸び率はわずか0.9%に留まる見通しだ。J.P.モルガンは、この需給ギャップにより銅価格が2026年第2四半期に1トンあたり12,500ドルに達すると予測している。これは、エネルギー移行(脱炭素)という長期トレンドに、AIという短期かつ強力な需要が上書きされた結果であり、ベースメタルの価格形成が「産業構造の変革」に直結していることを示唆している。

資源の「二極化」が示すグローバル経済の断片化

これら三つのセクターの動向を統合すると、世界経済が「効率性重視のグローバル・サプライチェーン」から「安全保障重視のブロック経済」へと移行している姿が浮き彫りになる。金が買われるのは既存の金融システムへの不信の裏返しであり、原油が洋上に滞留するのは制裁による物流の分断の結果である。そして銅の不足は、次世代の覇権争い(AI・エネルギー)における物理的リソースの争奪戦を意味している。

出典:[World Gold Council (2026/01/29)], [IEA (2025/12/11)], [S&P Global (2026/01/08)], [J.P. Morgan (2025/11/28)]

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